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Vol.1 大阪生まれの紀州犬 [犬ばか歳時記]

東京から大阪へ引っ越してきて、最初の友達は犬でした。タウン誌の「差し上げます」欄で探してきた紀州犬の雑種。体長一尺五寸、巻尾、立ち耳、色は白。名はチルーと付けました。


 
 ある日の散歩中、背後からおじさんの声がします。
「よう肥えたな」
 振り向くと、見知らぬ中年男性が、うちの犬にイカの薫製をやっていました。いつもポケットに入れて持ち歩いている酒のおつまみを、犬にお裾分けだと言ってくれたのです。大阪では、見知らぬ人にあたかも知り合いのように話しかけますが、それは犬にも同様だということを、犬を飼ってみて知りました。
 たとえば散歩中に、犬ががんとして動かなくなることがあります。そんなときにも大阪では、通りすがりのおっちゃんが
「おや、おシロさん。いきたないんか、いやなんか? ほうか、ほうか、しんどいのう、暑いからのう」
 等、たくみな話術で犬を先導してくれます。毛の色が白いからシロと勝手に呼ぶのはこの人だけではありませんが、チルーはおじさんの匂いが好きなので、おじさんが通りかかるとすんなりついていきます。おばさんでは駄目なのです。いろいろ考えてみましたが、いわゆる「おやじ臭」の正体といわれる揮発性アルデヒドが、犬にとっては魅力的な匂いなのではないか。と推測されます。

 また、うちは神社なので、チルーは境内の一角で用をたします(ちゃんと拾いますけれど)。それを見た参拝客のおばあさんが、
「白い白い犬やのう。これは神様の犬や。霊犬や。」
 と言って、手をあわせ、拝んでいかれました。
 
 次の日、同じおばあさんに道端でお会いしたので、また拝まれるかと思いましたが、今度は犬に向かって
「あんたはしょせん畜生(ちくしょう)やからな。」
と活を入れ、さらに私にも
「ちゃんと仕込まなアカンで。畜生はな。」
と釘をさしていかれました。仕込むというのは、しつけるということです。さすが人生経験の長いおばあさん、犬にも飴&鞭なのだなあと感心していたら、また翌日、同じおばあさんに会ってしまいした。きょうは果たして、ほめられるのか、シメられるのか? ドキドキです! すると……
「オンでっか、メンでっか?(オスですか、メスですか?)」
 と、まるで初対面みたいな質問。おばあさんの無軌道な三段オチ……さすが大阪だと、感心したできごとです。

チルー対キツネ
キツネの勝ち
 
 さて、神社で飼われているチルーにとって、月の初め、おついたち(一日)はキョーフの一日です。というのは、「おいなりさん」に数体まつられているキツネのご神体像が、月に一度のご開帳になるからです。そのキツネ像の目の前に、参拝客の方が、キツネの好物とされる油揚げをお供えしていってくださる。それは犬にとっても魅力的なシロモノですが、いかんせん、大きなキツネがこっちを向いているため、頂戴することはおろか、匂いを嗅ぐことすらできません。チルーがいくら吠え立てて、鼻筋をシワシワにして威嚇しても、キツネの像はびくともせず、こちらを睨むだけ。びびったチルーは、吠えながらだんだん後ろに下がっていく。と同時にテンションも下がってけっきょく退散、という展開になります。

 毎月同じことを繰り返すわが犬に、「そろそろ、本物のキツネじゃないことに気づけよ」と思っている私ですが、ここでひとつ疑問が沸きました。この犬は、人間の何万倍もの嗅覚を持ちながら、キツネ像の匂いが木材のそれであることに、気づかんのか?と。
 そこで、ためしにアフリカみやげの小さいラクダ像(木製)を、チルーの目の前に置いてみました。するとやはり、数メートル先から威嚇。どうやらこの犬は、相手の「形」で動物かどうかを判断しているということが分かりました。
 そこで、ラクダ像をひっくり返して、「降参のポーズ」にしてみました。するとチルーは、エイヤッとラクダ像におそいかかり、がしっ、と噛んだところで「なんだ、木か」と言う顔をしたのです。
 遅いよ、チルー。こんなことで、ほんとうに、イノシシ狩りが得意な紀州犬の血を引いているのだろうか。謎です。(2003年『S.P.Splendid!』7月号掲載)


2005-12-21 13:01  nice!(2)  トラックバック(4) 

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